昨年は詩人の萩原朔太郎の没後八〇年で、各地の文学館でイベントが行われたり、詩や人生や周囲の詩人を紹介する本が出版されたりしていました。都合がつかずイベント自体は見に行くことは出来なかったのですが、詩がラジオや書店で話題になっていると感じました。
詩は有名なものを少し読んだことがあるくらいなのですが、今回読んだ詩にまつわる三冊はどれも面白くて、親しみやすくて、詩っていいなと思いました。
どの本も名久井直子さんの装幀で、かわいらしくお洒落なデザインです。
『詩人探偵フラヌール』
河出書房新書 高原英理著
フラヌールは日本語だと遊歩者というそうです。
架空の町を舞台に、詩の話などしながらフラヌールするメリとジュンが主人公の連作短編小説集です。
萩原朔太郎を皮切りに、日本の近代詩、現代詩、ランボーなど海外の詩、短歌などを鑑賞し、語らいながらお店や不思議な事務所をそぞろ歩いたり人に会ううちに詩をめぐる探偵のアルバイトをすることになります。
ビルの屋上にある不思議なお店や、いい感じの古本屋がある町を歩き回る様子が楽しそうです。詩について語らうというと高尚な感じですが、二人の会話はゆるゆると進み、チャーミングで、テンポ良く読んでしまいました。
『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』
福音館書店 斎藤倫著
小学生の甥っ子が叔父さんの家を訪ねてきては、学校であったことや思った事を叔父さんに話します。叔父さんはそれに対して、言葉を返したり、詩を紹介したりすることを繰り返します。
甥っ子の質問に叔父さんが答えることもありますが、はっきりした形でないものも多く、詩と説明しきれない気持ちというか、世間のルールにのっとった言葉以外の言葉もあっていいんだよと言われている気がしました。
児童書なので、ふりがなもふってあり、字も大きいので読みやすいです。
紹介されている詩もどれも興味深くて、声に出してみたくなったり、しみじみ鑑賞したりしました。二人の会話が詩を楽しみやすくしてくれているのですが、そちらもおまけではなくてしっかりとした物語になっています。
『ポエトリー・ドッグス』
講談社 斎藤倫著
ぼくがゆびをぱちんと〜と同じ斎藤倫さんの本ですが、こちらは大人向け。犬のマスターが詩とお酒を提供するバーに通うぼくが語り手の小説です。
犬のマスターは人の言葉で話します。犬なので人のことはわからないと言ったりしますが、詩にもお酒の種類にも詳しくて、こんなお店行ってみたいなあと思ってしまいます。
ほのぼのした設定ではじまりますし、導入は詩って難しいなという感想やちょっとした解説だったりしますが、詩の内容も切実で深刻な出来事についても話題になったりします。読みながら時々胸が詰まるような苦しいような気持ちになったりもしますが、そういう気持ちも自分の大事な一部なのかもなと思ったりもしました。